JRSG代表幹事挨拶

JRSG代表幹事(JCCG横紋筋肉腫委員会委員会 委員長) 細井 創

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 今や2人に1人が発症するといわれる成人のがんに比べると、小児がんは、1万人に1~1.5人くらいの割合で発症する稀な疾患です。そのなかでも、小児がん全体の5~10%を占めるに過ぎない横紋筋肉腫はさらに稀ながんということになります。ただし、軟部組織肉腫(Soft Tissue Sarcoma)というカテゴリーでは、横紋筋肉腫は小児で最も頻度の高いがんです。日本では年間70~100人くらいの小児がこのがんを発症していると推測されます。10歳までに発症することが比較的多いですが、思春期の青少年や30歳くらいまでの若年成人にも発症します。頻度は少ないものの、80歳以上の高齢者に至るまで、すべての年齢層で一定の割合で発症し、20歳未満と20歳以上という分け方では、患者の約4割が20歳以上の成人とのデータもあります。

 診断は、手術で取り出した腫瘍の顕微鏡的所見(病理組織)で行われますが、成人のがんには精通した病理医でも簡単ではないことが多く、小児がん、とくに横紋筋肉腫に精通した小児病理医に集めて診断すること(中央病理診断)が必要です。病理組織のタイプは大きく胎児型と胞巣型に大別されます。後者には特徴的な遺伝子異常があり、診断に利用されます。

 治療は、手術と放射線療法、化学療法の組み合わせで行われ、治療開始の順番、各治療の組み合わせ方やタイミングが治療成功の成否の鍵をにぎります。発生場所は、膀胱や睾丸、前立腺、子宮や膣などの泌尿・生殖器領域や副鼻腔や耳下腺、咽頭などの耳鼻咽喉科領域、瞼や眼窩(目の奥)などの眼科領域、また四肢、脊椎などの整形外科領域、体幹、腹部の中など、全身のどこからでも発生しますので、小児外科医はもちろん、耳鼻咽喉科医、泌尿器科医、整形外科医ら、様々な臓器別の専門外科医との連携が必要です。発生部位の腫瘍を手術で取り除いたあとの部位からの再発(局所再発)が多いため、それを防ぐため(局所制御)、放射線治療が必須です(組織型が、より予後のよい胎児型で、最初の手術で顕微鏡的に完全に取り切れた場合は、放射線治療が不要の場合があります。)。成長期にある小児では放射線照射部位の成長障害や変形など、将来、障害となるような副作用が問題となることがありますので、小児に精通した放射線治療医との連携が必要です。化学療法は軽重、長短はあれ、外科的に取り切れた場合も含め、すべての例に必要です。治療内容や治りやすさ(予後)は、様々な予後(良好・不良)因子によって定められたリスク群により異なってきます。治療を開始する前に全身の検査をし、予後因子の有無をしっかり把握し、リスク群に合った治療を行うことが重要です。診断時に遠隔転移のある高リスク群、また特徴的な遺伝子異常のある胞巣型横紋筋肉腫患者の予後は未だ良くなく、その治療法は未だ発展途上にあります。

 横紋筋肉腫の治療は、小児科医(小児血液・がん専門医)、小児外科医(小児がん認定外科医)をはじめ、整形外科、泌尿器科、耳鼻咽喉科、眼科ら、広汎な臓器別専門外科医、 また、肉腫あるいは小児がんに精通した病理医、放射線診断・治療医との密接な連携が必要です。また、小児期に救命できた例でも成長するにつれ、身体のアンバランスが目立つようになったり、内分泌障害や循環器障害などの慢性疾患(晩期合併症)に悩まされたりする人も少なくなく、治療終了後も長期のフォローアップと晩期合併症のケアが必要となります。

 治療法を改善、開発するためには臨床試験が必要ですが、稀少ゆえ、一施設での工夫では有効性を科学的に証明することはできないため、全国的な多施設共同研究(グループスタディ)が必要です。また、適正な外科・放射線治療指針の啓発が必要であり、難治例には基礎研究者と連携して、基礎医学研究の応用(トランスレーショナルリサーチ)が必要です。入院治療期間は半年から1年、ときにそれ以上になりますので、教育や遊び、本人と家族を支援する様々な職種の医療関係者、教育関係者、ボランティアの連携と協力が必要です。横紋筋肉腫の治療は、複雑で、様々な専門外科医、放射線治療専門医、こどもの化学療法と全身管理に精通した小児科医の他、複数科、多職種の、多くのエクスパートとの連携と協力が必要なため、症例数は少なくとも、小児がん治療施設の治療水準と総合力のバロメーターと言えるかもしれません。また、その治療は、小児に限らず、がんや難病の集学的治療とチーム医療、トータルケアの代表的モデルになると言っても過言ではないでしょう。

 欧米、とくに米国では1970年代から横紋筋肉腫治療研究グループ(Intergroup Rhabdomyosarcoma Study Group; IRSG)があり、6~8年ごとの大規模臨床試験を重ね、その治療成績を改善させてきました。我が国では、長らく、IRSGの臨床試験結果発表論文などを参考に、施設ごとに工夫をして様々な治療が行われてきましたが、我々は、20世紀の終わりころから準備を始め、討議を重ね、2004年、我が国の横紋筋肉腫治療研究(臨床試験)グループ、JRSGを結成し、全国的臨床試験(JRS-I)を開始しました。今、JRS-Iが終わり、その結果をもとに、2015年に発足した日本小児がん研究グループ(Japan Children’s Cancer Group; JCCG)の疾患委員会の一つ、横紋筋肉腫委員会として、JRSG第二期臨床試験(JRS-II)を始めようとしています。

 臨床試験に参加できる患者さんは、JRS-Iでは20歳未満のこどもでしたが、JRS-IIではAYA(Adolescents and Young Adults)世代の30歳未満の患者さんも参加できるようにしました。JRSGの臨床試験に多くの患者さんが参加していただき、一人でも多くの方がこの難病を克服し、また治療後も質の高い生活と人生を送られることを切に願ってやみません。

 

2017年2月

JRSG代表 細井 創